白いゴルフとの前触れのない別離、そのダメージはしばらく後を引いた。こころが剥れたかのように荒み、平衡感覚すら失ってしまったようだ。そこからの回復はやはりショック療法しかないと、まず深く考えることをやめて、衝撃を受ける前の状況に戻るべく初めからやり直すことにした。要するにもう一台ゴルフを手に入れるのである。その頃、そこまで稼ぎがあったわけではないけれど、背に腹は換えられぬ思いは清水の舞台から飛び降りるような潔ささえ与えてくれている。ゴルフのGTIで年式、排気量ともに前車と同じ。ただ、同じ過ちは繰り返すまいと願掛けて、ホワイトではなく黒のボディになっている。
黒のゴルフはよく走ってくれた。60日しかいっしょにいてあげられなかった前車に比べると、3年という年月をともに駆け巡った。とにかく、法に触れない程度の加速感とスピードを楽しむことのできる息の合った相棒役を務めてくれたのである。
長女の生まれる少しばかり前にその相棒を手放すことになる。“走る”ことより“守る”ことへの意識だろうか。こどもの誕生を境に生じたこれまでにない心境の変化。遊び疲れたこどもが大人の領域に目覚めたということだろう。ゴルフからより安全性の高いボルボに車種を変えたことを考えれば自分より家族というキーワードが浮き出てくるわけで、要するにそれは“守る”ことになるわけである。
ただ、家族思いのようなきれいごとを並べながらも手に取った車はボルボながら流線形、より走りそうな顔をしたV40であることを考えると、大人にはなり切れずどこか燻っていたということになるのだが…。
スポーツタイプの中古ボルボに5年、後部座席には2度に渡ってチャイルドシートを固定しながら過ごした日々はやはり懐かしい。小さかった二人のこどもたちの思い出がふんだんに詰まっている、いわばスイスイと安全に走るベビーカーのような役回りだった。
下の子が3歳になったあたりにまた車を買い替えている。このボルボ、クレモナまで仕事に出掛けた時に忽然と寿命が尽きたのである。マニュアルのギアが利かなくなり、運よく近くに見つけたカロッツェリア(自動車修理工)に飛び込むと、修理にはかなりの費用が掛かり、この部位の破損となると連鎖的な故障を併発する可能性が高く、破棄して新しい車を探すべきと忠告を受けた。購入した時にはもうかなりのキロ数を走ったあとでそれでもここまで頑張ってくれたことを考えるとこれもまた感慨深い。
そのようにしてまた別の相棒を探すことになるが、ここではじめて誰もまだ触って(触られてはいたが)いない新車を選ぶことになる。知人の紹介でフランス車、プジョーのディーラーを訪ねている。
堂満尚樹(音楽ライター)
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